「リーン・スタートアップ」とその起業手法については、このブログでも何度か取り上げました。
その「リーン・スタートアップ」に対してある程度批判をしつつ打ち返しながら起業論を語った書籍として、ピーター・ティール著「ZEROtoONE(ゼロ・トゥ・ワン)」が出ました。
今回は、この「ZEROtoONE」から、起業アイデアのヒントを、絞りに絞って3つだけ取り出してみます。
ピーター・ティール著「ZEROtoONE」は、スタンフォード大学での講義録
ピーター・ティール著「ZEROtoONE」は、スタンフォード大学での講義録です。
このブログも実は講義録に近いです。ただ、私は残念ながらすべて自分で書き起こしましたが(笑)、ティール氏の場合はちゃんと聴講した学生が書き起こして他の人に手渡していたテキストがベースとなっています。
「ピーター・ティール」の知名度が日本ではイマイチな理由
「ピーター・ティール」は実業家らしく自ら本を書いていないためか、日本での知名度はいまいちです。「ペイパル・マフィア」と言っても、ネット業界の人以外にはあまり通じないでしょう。
一方、「イーロン・マスク」は非常に有名です。超速い高級電気自動車の「テスラ」を出したり、最近ではZOZOの前澤社長を宇宙に飛ばす人として、名が知れ渡っています。「イーロン・マスク」も「ペイパル・マフィア」のメンバーです。
つまり、「ペイパル」という超カンタンにおカネが送れるサービスを、「イーロン・マスク」とともに大成功させたのが「ピーター・ティール」です。
ただ、日本ではペイパルがあまり広がらなかったですし、そのあと興した「パランティア」という企業・サービスも、日本ではほとんど知られていません。これが「ピーター・ティール」が日本であまり知られていない理由でしょう。
書籍「ZEROtoONE」から起業アイデアのヒントを、3つだけ抽出
では、この「ZEROtoONE」から、起業のヒントとなる大切な知識を、3つだけに絞り込んで取り出してみます。
1)競争の外に出よ
「競争の外に出て、計画せよ」と言っています。
ある意味オーソドックスです。事業計画をたてよ、と言っているわけですから、旧来語られてきた経営手法と完全に一致しています。
「リーン・スタートアップ」への打ち返し、批判
そして、この部分が、極端な「リーン・スタートアップ」手法への打ち返しになっています。
リーン・スタートアップでは、やってみる、つまり、マーケットに出してみることを非常に重視しているため、まず出してみてユーザーの反応を見ながら変えていく、という段取りをとります。また、「ピボット」といって、当初は考えてもいなかったビジネスへと方向転換した成功事例が、かなり強調されます。
すると、計画しなくてもよい、あるいは、事前に計画したって意味がない、という極論へ行ってしまうわけです。マーケットからの反応次第でどんどん変えていこう、ということになっていきます。
その結果起こるのが、激しい競合・競争状態です。
戦う相手に似てくるの法則
激しい競争をすればするほど、お互いがますます似てくるのは、ビジネスだけではなくある程度普遍的な法則のようです。
「ZEROtoONE」の中では、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を例として引いています。
両家は似ているが、お互いを憎みあっている。抗争が激しさを増すと、どちらもますます似てくる。最後には、争いのきっかけがなんだったのかさえ忘れている。
「ZEROtoONE」より引用
書籍の中では、このあと「ロミオとジュリエット」を「ゲイツとシュミット」、つまり、「MicrosoftとGoogle」の戦いに置き換えて、見事にわかりやすく解説しています。
2)独占せよ
独占することは、「1)競争の外に出よ」と本質的に同じになるかもしれませんが、独占状態を考えることはとても大事なので、あえて別項目として出しました。
では、独占しているのは、どういう状態でしょうか。また、法律で独占は禁止されているのに、なぜそれが継続するのでしょうか。
独占状態の例1)二番手よりも10倍優れいている
Google検索が、世界を制覇しているのは、他社の検索エンジンに比べて、Google社が10倍以上優れているからです。
つまり、サービスの品質で圧倒的な1位を獲得している状態が、独占だ、というわけです。
独占状態の例2)ネットワーク効果のあるモデルになっている
ネットワーク効果をものすごくカンタンに言うと、
「Facebookのつながり・友人関係を、Twitterや他のSNSに持っていけない」
ということです。
Facebookの友達関係、つまり、ネットワークが圧倒的な差別化要因になって、Facebookというサービスの独占状態を作っています。Googleのように巨大な投資を何年にもわたって行っても、このネットワーク効果の壁を打ち破ることはできずに、Google+は今年終了します。
独占状態の例3)標準化。デファクトスタンダードとなっている
これは、Windowsの例がわかりやすいです。Microsoftの創業者であるビル・ゲイツは、成功した要因としてこの「標準化」を語っています。
つまり、「パソコンっていったら”普通”、Windowsが動いている」という状態であることが、デファクトスタンダードです。実際に、Windowsでなかったら、あぁMacですかね、という雰囲気が10年以上ずっと続いています。
3)小さな市場から始めよ
ものすごく狭く、マニアックで、ニッチなニーズを満たせ、ということです。
小さな市場なら、ライバルがあまりいませんから、そこで成功したらたいてい独占できます。まずは、そのニッチ市場での成功パターンを見つけて、独占状態を作ります。2番手に圧倒的に優位なポジショニングをつくります。
そのあと、その隣の分野、その周辺の分野に、その成功パターンを広げていきます。つまり、「横展開」していくわけです。
小さな市場から始めるメリット:ライバルがいない
小さな市場ですから、そこに力を入れる大企業はいません。
また、MBAに代表されるような賢い人たち・バリバリの経営者には、魅力的に見えません。市場が小さいわけですから、経営理論に従ってそういうマーケットを避けるわけです。
つまり、巨大な資本も強力な人材もいないことになるので、小さな市場・ニッチ市場で圧倒的1位をとるのは、意外にカンタンなはずです。
小さなマーケットで独占したら、次に、横展開
「ZEROtoONE」の中では、Amazon.comの事例を引いています。
Amazonは、当初「本」書籍のみを売っていました。そこである程度の成功をすると、次にCDやDVD、つまり、本に似た商品を扱うようになりました。いまは何でも売っているように見えますが、最初はニッチな限定された世界で圧倒的1位になってから、それを横展開したわけです。
ネットワーク効果の見込める市場は、小さく見える
前述した「ネットワーク効果」の見込めるマーケットは、当初そのビジネスが起こる前は、とても小さく見えることが指摘されています。
これも「Facebook」の事例を考えればすぐ意味が分かります。
「Facebook」が当初ハーバード大学の学生(3000人程度)だけに向けたサービスで、その小さな限定されたマーケットの中で圧倒的なシェアを取ることが当初の目標でした。そして、その手法を他の大学に少しずつ広げて、大学を1つずつ制覇していきながら大きくなっていった一風変わった事例でした。
「Facebook」のサクセス・ストーリーは、わかりやすく映画化されているので一度みてみることをオススメします。
まとめ
キレモノの起業家・実業家といわれる「ピーター・ティール」氏が、学生への講義の形でわかりやすく起業論を語っている本「ZEROtoONE」から、起業のヒントを抽出してみました。
お役に立てば幸いです。
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