「X-Tech(クロステック)」のなかでも、いま注目されている「不動産テック」と呼ばれるビジネスについて、この記事ではその代表的な事例として、不動産領域でのリスティング・サービス「Zillow」を取り上げます。
「不動産テック」の魅力と特徴
「不動産テック」の魅力と特徴について、こちらの記事でまとめています。
まだまだクローズドな領域が多く、巨大な業界にネット企業が革命を起こしていく様子を、さらに具体的にお伝えするため、代表的な事例を紹介します。
「Zillow」:不動産テックの超巨大先駆者
最初に紹介するのは、物件検索サイト、いわゆる「リスティングサイト」としてアメリカでトップを走っている「Zillow」です。
日本で言うと、「SUUMO」や「ホームズ」のアメリカ版と思えばだいたい合っています。
「Zestimate」:住宅価格を推定するサービス
「Zillow」がブレイクした理由の一つに、「Zestimate」という住宅価格を推定するサービスがあります。
住宅価格、つまり、「この家はいくらなら売れるか?」「この物件はいくらで買うとお得か?」という金額の判定をすることは、不動産屋さん、つまり、専門家の特殊技能でした。
これを、サイトに物件の概要を入力すれば、だれでもカンタンに金額がわかるようにしてしまったのが「Zestimate」でした。
この機能については「Redfin」という企業・サービスが後を追っかけていて、話題を呼ぶ状況が続いています。
しかし、ここで紹介したいのは、その裏側にある情報源のほうです。アメリカと日本の違いが象徴的に現れているからです。
アメリカの「MLS」と日本の「REINS(レインズ)」の違い
「MLS」とは、「MLS(Multiple Listing Service)」の略称で、業界関係者のみがアクセスできるアメリカ国内の不動産情報サービスです。
これは、日本の「REINS(レインズ)」というサービスとよく似ています。
業界関係者、つまり、不動産屋さんのみがアクセス・検索できる、物件のデータベースです。
駅前の不動産屋さんに行くと、カウンター越しにカタカタと検索しながら物件紹介してくれることがよくありますが、そのパソコンに表示されているのは「REINS」の画面かもしれません。
しかし、ここには大きく2つの違いがあります。
MLSとREINSの違い1)情報登録は義務
アメリカの「MLS」は、州によって違いはあるものの、おおむね24時間以内に登録しない場合違法となります。つまり、自分が得た物件情報はすぐに登録する義務がある、ということです。
これに対して、日本の「REINS」への登録は義務ではありません。
「REINS」に出ることなく、個別のつながりを通って取引される物件が多くあることを意味します。
MLSとREINSの違い2)データを二次利用できる
アメリカの「MLS」は、そのデータを二次利用できます。つまり、自分のWebサイトでそのデータを表示することができます。
日本の「REINS」は、そのデータを二次利用できません。つまり、「SUUMO」や「ホームズ」に表示されている物件情報は、「REINS」とは別に、各社が独自に集めた情報で構成されています。
日本で「Zestimate」のような物件価格の見積サービスをつくろうとしたら・・・?
「MLS」と「REINS」の違いをみるとわかるように、アメリカと日本では公開される情報の網羅性や情報の質がまったく違います。公開されない情報が多いということは、コンピュータで計算させるための手がかりが少ない、ということです。
つまり、日本で「Zestimate」のような物件価格の見積サービスをつくろうとしても、アメリカで行うような場合の情報精度は出ない、ということです。コンピュータ、あるいは、AIに推定させる場合、最初に与えるデータの量と質によってその精度がまったく変わってしまうからです。
これを不動産屋さんの側から見ると、少し違った風景が見えてきます。
物件の価格見積もりという特殊なサービスを、コンピュータ・ネットに奪われずに済みます。
クローズドな情報が多ければ多いほど、プロと素人の情報格差が開き、プロのコネクションで得られる情報で、おカネを稼ぐことができます。
だから、「REINS(レインズ)」のような場所にすべての情報を公開する動機がありません。自分が得をするように選んで情報をアップするほうが自然です。
「MLS」は、情報公開を必須にすることで、テクノロジーが入り込む余地を増やしたほうが、公共に利するという考え方が裏側に流れていることがわかります。
まとめ
アメリカの不動産リスティングサービス「Zillow」を事例として、日本との違いをデータの側面からあぶり出してみました。
お役に立てば幸いです。
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