「戦略」と「戦術」はどう違うのか、どう区別すべきなのかを、わかりやすくシンプルに紹介します。
例)英語教材を売る販売会議
突然ですが、社会人向けの英語の教材を売っている会社に入った、と思ってください。
そこではいま、販売数が伸び悩み、何か対策を打つ必要があるが、何をしたらよいかわからない状況です。この販売不振を打開して売上を伸ばすための会議が開かれました。
「我が社の英語教材をもっとたくさん売るために、どうしたらよいか、アイデアを出してください。」
いろいろなアイデアが出ます。たとえば・・・
「広告を出しましょう。インターネットの広告がよいと思います。」
「それならいまは動画ですよ。YouTubeを使えば。」
「テレビの通販チャンネルで売ってもらうのもアリです。」
「商品の名前を変えましょう。シニア向けに変える!」
「英会話学校と提携して、その生徒に特典付きで販売しましょう。」
「商品の組み換えが必要です。初心者向けをもっとカンタンにして間口を広げましょう。」
・・・どれももっともらしく、どれもよさそうな気がします。
でもこれらはすべて「戦術」です。
よって、これらアイデアのなかから、たとえば社長がよさそうだと思ったことを順番にやる、ということは、戦略的な動きではありません。
しかし、創業期や中小企業では、社長の戦術選びで勘が当たることによって会社が成り立っていることもよくあります。よって、戦術を連発することも悪くはないのですが、戦略なくして一定以上の規模に拡大しないのが法則です。
つまり、勘が当たったり勘が当たらなかったりするために一定以上に規模が大きくならず、中小企業が中小のまま続き、トップの感覚と世の中のズレが大きくなって勘が当たらなくなった場合には沈没していきます。
「戦略的」に変わっていくには:調査と仮説
では、これを「戦略的」にするのは、どうしたらよいのでしょうか。
「戦略」を組み立てる前には、たいていの場合、リサーチ、調査をします
たとえば、いまの顧客はどんなヒトなのか、をあらためて調べます。
20代には売れており40代以降が極端に少ないとすれば、2つの道があります。20代にもっと売るか、40代以降に売るための対策を立てるかです。市場調査のデータに照らし合わせて、20代にもっと売るほうがよさそうとわかったら、「20代にもっと売れる(はず)」という仮説を立てます。
そして、「20代にもっと売るには」という戦術をたくさん考えて、リスクが小さく仮説が確認できそうなものから実行します。
このような段取りをとることで、ただアイデアを出すよりは、ずいぶん戦略的になりました。
「戦略」とは、優先順位付け
「戦略」とは、優先順位を付けること、とも言えます。
前述の例では、40代以降よりも20代を優先させる、と決めたわけです。優先順位を付けることが重要な理由は、リソース・経営資源は常に有限だからです。
つまり、ヒト、モノ、カネ、情報、時間、すべて有限です。
全体の量では、中小企業なら大企業に勝てません。
有限なリソースを、いつ、どこに、どれぐらい当てるかの配分が、勝敗を決めます。20代に集中させたら、その部分・その領域だけなら、ライバルの大企業に勝てるかもしれません。
局地戦で勝ちを重ねるのが、いわゆる「弱者の兵法」です。
目に見える「戦術」、目に見えない「戦略」
もう一つ、戦略についてよく言われるのが、目に見えない、ということです。
「戦術」は目に見えるが、「戦略」は目に見えない、と言われます。
冒頭の販売会議の例でも、たとえば、広告を出したり、商品の名前を変えたり、業務提携したりすることは目に見えます。
しかし、たとえば、20代に集中投下していることは、ライバルがすぐ気づいたとしても、直接目には見えません。その戦略のもととなった「20代にもっと売れるはず」という仮説は、さらにその奥にあります。
間違ったらすばやく方向転換:「ピボット(Pivot)」
仮説に基づいて、一貫した戦術をとる、というのも戦略性が高い行動です。しかし、たとえば、「20代は飽和状態だ、もう無理だ!」と、やっている途中でわかるかもしれません。
むしろ、戦略を立てる立場にあるヒトは、そういう兆候がないか、つまり、仮説が間違っていた、という印し・サインがないかどうかチェックし続けることになります。もし仮説が間違っていたと判断したら、いかに早く方向転換するかが勝負の分かれ目になります。
この方向転換を、「ピボット(Pivot)」と呼びます。
うまくピボットできる、つまり、すばやく方向転換できるチームや企業が、変化の早い世界のなかで生き残ります。
「戦略的」に動く難しさ
当たり前のことだと思った方も多いでしょう。「そんなのわかってるよ」「本読めば書いてあるし」まさしくそのとおりです。
でも、振り返って自分の会社をみたときに、戦略を立てて実行している現場は少ないのです。
一般論、一般的な法則や知識を、自分に当てはめて考えて行動することは、本当に難しいことです。だから、世の中に大量にいる経営コンサルタントの商売が成り立ちます。
まとめ
「戦略」と「戦術」はどう違うのか、どう区別すべきなのかを、できるだけシンプルに紹介しました。
お役に立てば幸いです。
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