ヒトの話しを聞くことは、日常やっていることでありながら、奥が深くて難しいことです。話し手を理解すること、と言いかえると無限の奥行きが出てきます。
ここでは、ホームページ・Webサイト制作を依頼されたときに話しを聞く、つまり、ヒアリング、あるいは、オリエンテーション(オリエン)を受けるケースを前提に、どういうことに気を使ったらよいかをまとめますが、他の業界、他の仕事にも応用できる知識です。
【大前提】相手は素人である
わざわざホームページがつくりたいと依頼してくるわけですから、少なくともホームページに関しては、相手は素人のはずです。
大企業の担当者が相手の場合、「自分でつくれますよね?」といいたくなるような業界経験者が出てくることもありますが、そもそも自社ではお手上げだから依頼するのだと考えるべきです。
素人なので、整理して話すことはできないという前提に立つのがよいでしょう。よって、課題や目標を整理しながらヒアリングすることを目指しましょう。
ヒアリングシートなどで標準化することも大切ですが、ある程度経験を積んでいくと、相手の状況が予想できるようになり、聞かなくてもわかることが増えていきます。
同じ会社は一社もないはずですが、似たような課題を抱えていることはとても多いので、頭の中で仮説を立てながら話すといい質問を作りやすいのです。しかし、自分の思い込みで相手を押し流さないように気をつけましょう。
相手に寄り添いながらも、適度な距離感を保つ
打ち合わせの限られた時間の中で、相手からどれだけの濃さの情報を引き出せるかが、ウデの見せどころです。初期段階、上流工程での情報密度はプロジェクトの成否に結構大きくひびいてきます。
四角四面にヒアリングシートをうめていくだけでなく、話しやすい雰囲気をつくることが大事です。
相手を理解して、よりそっている雰囲気が出ると、安心して話せます。寄り添って課題を共有・共感した上で、「自分たちのできることはコレでここまでです」という提案をすると、相手が納得しやすく適度な距離感をつくることができます。
依頼者の業界では自分が素人
依頼者の業界では、自分が素人です。先入観をできるだけ排除して、白紙の状態から聞き取りをします。
実は、素人目線というのはものすごく役に立ちます。
Webサイトはたいていの場合プロモーション目的、広く知らせる目的でつくりますので、そのユーザー・ターゲットは素人であることが多いのです。そうすると、プロフェッショナルである依頼者にはわからない素人ユーザーの気持ちが、素人である自分たちにはカンタンにわかることがあります。
素人目線のアドバイスを入れながら聞き取りをすると、かえって信頼感が生まれてきます。
事前の調査は重要
前言をくつがえすようですが、打ち合わせに行く前の事前の調査・勉強はものすごく大事です。
これは忙しい相手の話しを聞きに行くときの、つまり時間をとってもらうときの礼儀作法と言ってよいでしょう。素人なりに調べる手間をかけたということが、ちらっと相手に伝わるだけでも話しのトーンが変わります。
手間はそれほどかかりません。ググるだけです。
打ち合わせに行く前に、ちょっとした手間をかけることで、相手が心をひらいてくれるなら、ものすごくコスパがよいのです。
ヒアリングに行く前は何の依頼なのかわからないことも多いですが、相手の既存Webサイトや創業者の取材記事などミクロ情報はおさえましょう。できれば、その業界の動向や成り立ち、最近のニュースなどマクロ情報もざざっと見ておくと、
「あぁ関心をもって調べてくれたんだな」
ということが相手に伝わります。この「関心を持ってくれている」という感じ・雰囲気・オーラがとても大切です。
ヒアリングする内容
以下のようなことを聞き取ります。技術的な細かいものをのぞいていますので、ヒアリングシートをつくる場合は必要なものを足してください。
やりたいこと、目的、課題
そもそも何がしたいのか、を聞き取ります。
これが意外とはっきりしていない場合が多いのです。そのWebサイトの目的は何か、会社のポリシーを伝えたいのか、採用に役立てたいのか、問い合わせがいっぱいほしいのか、ユーザーコミュニティをつくりたいのか、あるいは、単に看板としてはずかしくないものを置いておきたい、という場合もあります。
そもそもの目的や課題がずれていると、すべてがちぐはぐになり、後の工程がすべて無駄になることさえあります。
ここを見える化する付加価値は大きいのですが、ホームページ制作の場合、ここの付加価値を認めてもらえないことが多いのもまた事実です。
数字、目標
達成したい目標を聞き取ります。
目標は、大きく2つに別れます。定性目標と定量目標です。
- 定性目標は、数字で表せない質的な状態を設定するものです。
- 定量目標は、数字で表せるものです。
定量目標が出てくる場合にはシビアな設計が必要になりますが、ヤリガイのある仕事になるでしょう。バシッと数字が出てくる会社は伸びる可能性が高いので、お付き合いを続けるようにしたほうがよいかもしれません。
締め切り、スケジュール
締切、スケジュールの都合をしっかり聞くことで、時間にシビアな印象をもたせましょう。
時間が長引くことで制作側は損害が出ることが多いのです。依頼者側があまり気にしないケースもあるので、時間が長引くことがわかっている場合は、そういう業務フローをあらかじめ組んで見積もりに反映させることが大事です。
予算、費用
「予算」や「費用」については、なかなかはっきり言ってくれないのが日本の商慣習かもしれません。
顔色目の色を見ながら、スパッとストレートに聞いてしまうほうがわかりやすいこともあります。
キーマンは誰か
「キーマン」とは、このヒトがYesと言ったら全員Yesになるような、結論の決定権を握っているヒトのことです。
プロジェクトの中で一番エラいヒトがキーマンの場合はシンプルですが、実はその上がウンと言わないとダメだったり、実は横についているコンサルタントがキーマンだったり、こちらに見えていないケースもたくさんあります。
さらによくあるのが、ワンマン社長がすべてを握っているケースです。これは会社規模の大小にかかわらずありえます。知ってさえいれば必ずしも悪いことではありません。この場合、依頼者側のメンバーといっしょに社長の説得方法を考えるか、ワンマン社長のためだけに企画書を書くこともあります。
予算やキーマンは、通常ストレートに教えてもらえないでしょう。これを聞き取ったり、見抜いたりする能力が、ウデの良さに直結します。
まとめ
ヒアリング項目の中に、「戦略」がないことに気がついた方もいらっしゃるでしょう。「戦略」はないことが多いのです。20年の経験の中で、オリエン段階で戦略が明確に出てくるケースはほとんどありませんでした。
つまり、逆に提案をするときには、戦略を軸に企画を組み立てると、相手がドキッとするようなプレゼンをすることができます。
お役に立てば幸いです。
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