起業するならB2B?B2C? 「いい会社」になる理由

ストーリー

就活のない平成最後の世代だったぼくは、地元の電力会社の子会社に就職した。

まだ創業から5年ぐらいしかたっておらず、課長以上はすべて親会社、中部電力からの出向だった。そして、担当した現場はほとんどが中部電力の建物・設備の中で、特に、長野県や三重県のなかでもさらに人口が少ないエリアに行き、現地の親会社の人々に気をつかうのがその役割だった。そんな状況だったから、子会社社員の身分でありながら、地元電力会社のいいところも悪いところも存分に味わうことができた。

いま振り返ると20代前半はかなり生意気だった。よくこんな生意気な人とまともに会話してくれたなぁと思うぐらい、周りの人々は優しかった。ある意味ロックな精神ではあるものの、伝統的で保守的な会社の雰囲気にあまり気を使うこともなくガツガツと反発していた。だが、そのときあることに気がついていた。

いい会社だったのだ。

その証拠に、辞める人が極端に少なかった。辞めて数年後に、同期の飲み会になぜか誘われて出席したことがあったが、自分以外誰も辞めていなかった。安定していて給料も悪くなく、地元でそこそこの尊敬を受ける。こんなところに収まるわけにはいかないと、田舎くさい野心に燃えていなければ、特に何かに追い立てられることもなく普通にやっていける。でもこのときはまだ、「いい会社である理由」には気がついていなかった。

その後10年近く、フリーランスといえば聞こえはいいが、実態としてはフラフラしながら名古屋の経済圏の中で働いた。インターネットが勃興してどんどん大きくなっていたから、その末端で生きていくのは難しくなかった。

名古屋で働いていると、「トヨタ」の影響を感じずにはいられない。学生時代の友だちは大半がトヨタ自動車とその傘下にある企業に就職していたから、そのトヨタ自動車を頂点としたピラミッド構造の大きさとパワーをよく聞いていた。たとえば、同じ役職、部長や課長であっても、トヨタ本体とその他の会社とではまったくヒエラルキーが異なり、給料も段違いであることは、電力会社のそれと似ていた。しかしこのときもまだ、トヨタ自動車がなぜピラミッドの頂点にいるのか、わかっていなかった。

その後、紆余曲折あり、東京に出てきて日本一のネット企業で働くことになった。この会社もまちがいなく「いい会社」だ。皮肉でもなんでもなく、退社するときも本心からそう思っていたし、数年が過ぎて当時の同僚に聞いてみると辞めた人が極端に少ない。

この会社では、社外の人と付き合うことがほとんどなく社内でなんでも完結してしまう仕事をしていた。だから、ピラミッドの頂点にいる感じはあまりなかったが、しかし明らかに、仕事を発注する側だった。仕事を受けずに発注する側のみであるということは、ピラミッドの頂点にいることを意味する。仕事と売り上げはそこから落ちてくるのだから。そして、この会社でようやく、ピラミッドの頂点に立つことの条件、「いい会社である理由」に気がついた。

それは、お客様と直接につながっていることだ。

ネット企業は、ユーザーが直接使うメディア・媒体を立てて、それを通してお客様と直接に付き合う。電力会社は電気を提供して各家庭から直接に料金をいただく。トヨタ自動車は、ものづくりが前面に押し出されていてメーカーの顔をしているが、ピラミッドの頂点に君臨する理由は、販売会社を別に立てているとはいえ、やはりクルマをお客様に販売しているからなのだ。

多くのお客様に魅力ある商品やサービスを提供して、おカネをもらい続けている会社が、ピラミッドの頂点にに立ち、他の企業に仕事を出し、社員にいい給料を出して、「いい会社」になる。これが経験から得られた法則だ。

では、会社向け、法人向け、いわゆるB向けの会社はダメなのか。
そうでもない。ぼく自身が書いた。

しかし、ななめ上からこの「B2B+SaaS」の盛り上がりを眺めてみると、サラリーマンだった起業家、古い言葉で言うと「脱サラ」した大量の起業家の受け皿になっているのではないかと思えてくる。

サラリーマンだったから、どうしてほしいのかが肌でわかる。
サラリーマンだったから、そのときの理不尽さを解消したい。

それが、SaaSというトレンド・流れにのって盛り上がってきたのが「X-Tech(クロステック)」なのだ。

そして、いまの「B2B+SaaS」企業が、トヨタや中電のようなピラミッドを形成して多くの人々を養う未来は、ぼくには想像できない。その理由は、お客様と直接つながる「B2C」ではなく、会社とつながる「B2B」であるからだ。

じゃぁ、シェアリング・エコノミーは?
普段からネット起業をオススメしている自分の一部が聞いてくる。B2CとB2Cの組み合わせじゃないか、最高のはずじゃないかと。

実際、ニーズは身近にいろいろなところに実は転がっていて、起業を目指す若い人たちからアイデアを聞くことも多い。そして、参入障壁は低い。若い人の起業事例を探してみると、たとえばこんなのが見つかる。

14歳と19歳、どちらもなぜかマッチングサービスだ。

身近なところに起業のネタを発見するのは正しい。ものすごく正しい。しかし、CとC、CとB、ニーズの異なるユーザーをネットの力でマッチングさせるサービスにも、巨大なピラミッドを形成する未来は感じられない。この理由を早めに発見しておかないと、ネットで起業させる自分の使命に大きな危機が訪れそうで、怖い。

しかし、どうせやるなら、巨大な産業をつくって数多くの人々を養う未来をつくろう。

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