カオスが止まらないCMS業界を独自に分類する【まとめ】

テクノロジー

CMS(Contents Management System/コンテンツ管理システム)について、1年に1度は必ず振り返りをします。講義のカリキュラムに組み込んでいるので、その内容が世間とズレていないかどうか必ず確認します。

今回あらためて、いろいろなWebページや書籍などの情報を眺めてみると、ここ1〜2年の間にカオスがさらに加速し、うまく分類できている人を見つけられませんでした。CMSをまとめているWeb記事は、ただただ並べているだけか、あるいは、アフィリエイトで有利な順番に書いているページが大半で、業界の様子は表現されていませんでした。

参考になる分類がなかったので、しかたなく(?)独自にまとめることにしました。この分類の目標・条件は:

  • 初心者向け
  • 10分〜20分で話せる

これらを目指しているので、学術的・アカデミックな網羅性は求めておらず、極限までシンプルに解説すること、そして、話しを聞いたあとにCMSを使ってもらうことに重点がありますので、ご了承ください。

そのかわり、このカオスな状況をたった2つに分類します。

CMSとは

「CMS:Contents Management System」(コンテンツ管理システム)とは、HTMLやCSSの知識がなくてもWebページを作成、修正できる仕組みです。

以前に出したCMS解説記事と内容がかぶりますが、「そもそもCMSってなんなのか」について少しコメントします。

CMSは、「Wordやパワポを使うぐらいの感じでWebサイトを作れるといいね」ということが目標です。「CMS」という言葉がなかった時代から続いている考え方でしょう。しかし、現実には、HTMLやCSSの知識がないままだと手探り感が強すぎるし、だんだん行き詰まってくることがよくあります。

ただ、HTMLやCSSに精通しているプロであってもやっぱりツラくなることが多く、プロ・ユースに耐えうる、プロが使いやすいサービスも出始めました。

「ノーコード」のという言葉の勃興

このカオスな状況に拍車をかけ、あるいは、分類を難しくしたのが「ノーコード」という言葉の流行でした。

HTMLやCSSもそれを扱う仕事が「コーディング」と呼ばれていますから、「HTML・CSS無しでOK」となると「ノーコード」に分類されてしまいます。後から出てきた「ノーコード」という言葉が、その前からあるサービスや製品をなんでもかんでもその配下に入れ始めました。

このおかげで、特に新しく出てきたサービスや会社が、CMSという枠にとらわれずにイノベーションを進めた効用はあったのかもしれません。

私のほうは、「ノーコード」というテーマを講義で取り上げるのをグッと我慢する日々が続いています。

CMSのシェア・数字

分類する前に「シェア」つまり、利用者の多いサービス・製品は何なのか、どれぐらい強いのか・弱いのかについて、眺めます。

こういうとき、学生にもよく紹介しているのは、「W3Techs」というサイトです。

ニュース記事にもよく取り上げられます。

一般的に、ネットの統計情報はどういう場合にどの程度「アテになる」のかを、いちいち見極める必要があります。

この「W3Techs」は統計情報としてある程度認知されており、頻繁に更新され続けていて、しかも無料で眺められる・・・という理由で、よく紹介しています。

CMSの数字は注目度が高いようでトップページの冒頭にまとめ情報が載っています。(2022年1月時点)詳細はこちらです:

この記事を書いている2022年1月時点では、「WordPress」のシェアが65%超で、圧倒的です。2番手には「Shopify」が躍進中ですがこちらはECサイトに特化しています。3番手に「WiX」が伸びてきていますが、「WordPress」と比較すると数字が小さくなってしまいます。すると、

「WordPress」をやっときゃいいんじゃね?

というのが結論になってしまいそうですが、そこをグッとこらえて、今回の分類をご覧ください。

CMS分類1)SaaS型

一つ目の分類を「SaaS型」と名づけました。

「ノーコード」などでよく話題になる、あるいは、最近ニュースに取り上げられるサービスは、ほぼすべてこの「SaaS型」に分類されるので、1つ目に持ってきました。

「SaaS」とは、「Software as a Service」の略です。ヒトコトで言うと「ブラウザですぐ使えるヤツ」です(笑)。詳しくはこの記事などご覧ください。

わかりやすくするため、「SaaS型」も強引に3つに分けてコメントします。

SaaS型1)初心者狙いのサービス

もっとも数が多く、ある意味で歴史も古いのが、「初心者向け」のサービスです。

次のようなサービスを事例とします:

  • WiX
  • グーペ
  • Jimdo
  • Ameba Ownd
  • (そのほか多数・・・)

「とっつきやすさ」を優先して作られており、まさしくWordやパワポの感覚で操作・編集できるサービスも多いです。

「ブログ<CMS」になった

以前の記事で、「HTML・CSSなしでカンタンにWebサイトを作るなら、ブログだけ作るのも手軽でいいですよ」と言っていました。

しかし、現在の状況では、ブログはCMSの機能の一つとなったようです。

これを象徴するのが、日本のブログサービスでトップを走っていたアメブロ:「Ameba ブログ」とものすごくよく似た機能が、CMSサービスである「Ameba Ownd」にひっそりと置かれていることでした。

この分類でトップを走っていると思われる「WiX」にもブログ機能があります。

SaaS型2)プロ狙いのサービス

CMSにおいても「プロ向け」、「Webサイト制作の仕事をしているプロでも使えるCMS」という位置付けサービスがここ3年ぐらいで急激に伸びてきました。

「SaaS型1)初心者狙いのサービス」に比べると少ないのですが、このような事例があります:

  • Studio
  • webflow

画面をみるとすぐにわかりますが、HTMLやCSSの用語を知っている人がすぐにわかる画面構成や言葉選びをしています。

また、ページのプロトタイプ(試作品)をすぐにアップして見せられるようにする、などプロの現場利用を想定する作りになっています。

私自身が「Studio」が出てきた時に感動して、実際にお客さまのWebサイトを「Studio」で構築した経験があります。

3年ほど前までは、このジャンルで「Tilda.cc」というサービスが話題になっていたのですが、最近の記事にはほとんど取り上げられていません。

特に何かが変わったようにも思えないのですが、取り上げられなくなった理由は判然としませんでした。

プロ向けのCMSが出てきた背景2つ

プロ向けのCMSが出てきた背景が、2つあると考えています。

1つは、「コーディングができないWebデザイナー」が増えてきたことです。

10年ぐらい前のWebサイト制作の現場では、コーディングもできるWebデザイナーのほうが多数派でした。というか、コーディングができないとWebデザイナーと呼べなかったのかもしれません。この当時は、PhotoshopでデザインしてそのままHTMLページとして出力するなど、ツールでかなりの部分を作ってしまう手法がよく使われていました。

2つ目は、1つ目と裏表の関係にありますが、「コーダーがエンジニア化してきた」ことです。

スマホの登場とともに、「JavaScript」をフル活用するページが普通となりました。
「JavaScript」は、その難易度や専門性を考えると、プログラマやエンジニアの作業領域です。
しかし、「JavaScript」を扱えないコーダーがだんだん存在できなくなり、コーダーも自ら「フロントエンド・エンジニア」です、と名乗るようになってきました。(エンジニアと名乗るほうが給料も上がります(笑)

作り方も、ツールでばさっと書き出すよりは、タグやプログラムをタイプして書いていく手法、つまり、エンジニアがプログラムを書くのとほぼ同じ手法が主流になりました。そして、このやり方を補助するようなツール(フレームワーク、「BootStrap」など)も流行りました。

よって、「プロ向けのCMS」のニーズとして、「プロのWebデザイナーがコーディングしなくてもすぐ出せる」を満たすものだったのでしょう。

SaaS型3)ジャンル特化型のサービス

SaaS型で最後の3つ目の分類には、「ジャンル特化型」と名づけました。

SaaS型3)ジャンル特化型のサービス 事例1)「Shopify」

CMS業界シェアのところで名前が出てきた「Shopify」が代表事例です。

ECサイト・何かを売るサイトを、すぐに作ることができるサービスです。

「Shopify」は、主に物販、いわゆる「D2C」企業の成長とともに大きくなり、あるいは、「D2C」業界の急成長・巨大化を支えたといっても過言ではありません。(※「D2C」については、別途解説記事を出す予定です。)

日本国内では、似ているサービスとして「base」が有名です。

SaaS型3)ジャンル特化型のサービス 事例2)「ペライチ」

「ペライチ」は、サービス開始当初は、その名の通り1ページを超カンタンに作るサービスとして出てきました。

ペライチという言葉は、紙一枚だけで出す、あるいは、内容を1枚分にまとめるときに、ビジネスの現場でよく使われていました。

しかし、いまの「ペライチ」は、成長して多機能化しており、普通にWebサイトを構成できる機能がそろっています。

このように、当初は特化型で出てくるが、資金が入って機能がいっぱい開発され、1〜2年ぐらいの間にすっかり変わってしまう、というのがSaaS型企業の一般的な成長スタイルです。

この成長スタイルが、CMS業界のカオスな状況をどんどん加速させています。つまり、それぞれのサービスがそれぞれに拡張していくために、分類したものが合わなくなったり、お互いに重複するようになったりするためです。

分類1)SaaS型に共通するメリットとデメリット

「SaaS型」に共通するメリットとデメリットをコメントします。
CMSだけでなく一般的な「SaaS型」サービスにも共通することかもしれません。

分類1)SaaS型に共通するメリット

「SaaS型」に共通するメリットは、なんといっても「すぐ使える」ことです。

ほとんどすべてのサービスが、ID、パスワード、メールアドレスを登録すれば、無料ですぐに使い始められます。

「フリーミアム・モデル」として有名になったこの手法は、あまりにも当たり前になってしまい「フリーミアム」という言葉が消えつつあるものの、手法としては生き残りました。

分類1)SaaS型に共通するデメリット

「SaaS型」に共通するデメリットは、引越しできない、移行できない、つまり、「途中で別のサービスに乗り換えることが非常に難しい」ことです。

データのエクスポート・書き出しやダウンロードができるサービスはあまりありません。

これは、前述の「フリーミアム・モデル」と一体化している「サブスクリプション」というビジネスモデル(お金のもらい方)を採用しているためです。

「サブスクリプション」は、毎月毎年、ずーっと継続して使い続けてもらうことでサービス全体の収益を成り立たせることを目指します。だから、最初の導入は無料にできるわけですが、途中でやめたり、別のサービスに乗り換えたりすることを難しくしたくなります。

ケータイのMNPを想像すればわかりやすいかもしれません。(無理矢理ケータイ各社の乗り換え促進をやった当時の政権には理解できなかったのかもしれませんが・・・)

また、SI業界では似たような現象を「ベンダーロックイン」と呼ぶこともあります。特定のサービスにくっついて変えられない状況を言います。

もう一つの欠点・デメリットとして、「いつ何を変えられてしまうかわからない」「ユーザー側には制御できない」ということがあげられます。たとえば:

  • 例)有料/無料の線引き
  • 例)料金体系
  • 例)機能の追加、廃止

むしろ、提供側都合で変更されることが利用規約に書かれていて、同意しないと使えなくなっていることが多いでしょう。

多少気に入らなくなったとしても、引っ越しするのはそうカンタンでない(だから、サブスクでお金を払い続けてもらえる)というのが、CMSだけでなく「SaaS型」サービス全体の特徴でもあります。

CMS分類2)インストール可能型

分類1)SaaS型に対して、比較的古くから存在して生き残り続けているタイプを「インストール可能型」と名づけました。

事例として、次のような製品・サービスを分類しています:

  • WordPress
  • Movable Type
  • Drupal
  • EC-Cube
  • Magento
  • (そのほか多数・・・)

「WordPress」は、前述の通り「Movable Type」を抜き去って以来、圧倒的なシェアで伸び続けています。

「EC-Cube」や「Magento」は、ECサイト専用とも言える、ジャンル特化型のシステムです。

分類2)インストール可能型の特徴1)オープンソース

「インストール可能型」は、「SaaS型」にほとんどない大きな特徴として、「オープンソース」「フリー・ソフト」であることがあげられます。

つまり、無料で誰でもダウンロードし、インストールして使うことができます。

分類2)インストール可能型の特徴2)プラグインと二次マーケット

また、ほとんどの製品が「プラグイン」という形で、ユーザー側で機能追加できるようにしています。むしろ、プラグイン開発を推進しています。ほとんどの「SaaS型」の製品とは異なり、使う側が自由に機能を追加できます(プログラム開発のスキルが必要ですが・・・)

たとえば、圧倒的シェアを持つ「WordPress」には、「プラグイン」や「テーマ」(テンプレート)を自由に追加できるため、これをビジネスにして販売するマーケットができています。

また、これらのシステムを「SaaS型」と同じように「すぐ使える」状態にするサービスも数多く出ています。(「ホスティング」と呼びます。)

こういうマーケット、つまり、プラグインやテーマなどの販売、ホスティングなどの事業を行う市場を作り出して、回していくことを、「エコ・システム」と呼びます。(「SaaS型」で「エコ・システム」を目指すサービスもありますが、話しが複雑になるためここでは省略します・・・)

「WordPress」で納品する制作案件が普通に

プロのWebサイト制作現場でも、「WordPress」上でサイトを制作し、そのまま納品するケースが増えてきました。

Webサイトを受け取ったお客様側でも、記事の追加や修正が行えるため、「プロにいちいち頼むまでもない」作業をプロではないユーザー側でもできます。。

作り方は、「WordPress」のテーマを専用に制作する手法が大半です。この手法をサポートする情報や書籍も増えてきました。

よって、現在の「コーダー」は、「WordPress」を扱える、あるいは、「WordPress」のテーマを作成できるスキルが必要とされるようになった、とも言えます。

まとめ

CMSの業界動向、サービスや製品を、独自の切り口で、あるいは、独断と偏見にて、分類し、まとめました。まとめると以下の4つに分類したことになります。

  1. SaaS型
    1. SaaS型1)初心者狙いのサービス
    2. SaaS型2)プロ狙いのサービス
    3. SaaS型3)ジャンル特化型のサービス
  2. インストール可能型

来年には違うことを言っているかもしれない、と思いつつ、現時点での分析を紹介しました。

お役に立てば幸いです。

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