モノを売る「D2C」事業が急激に成長するにともなって、それを助け手伝うビジネスも大発展しました。今回は「D2C」企業を支えるサービスや企業を紹介します。
事例)「Shopify」 /D2Cが生み出した世界企業
ショッピング・サイトは、だいたい同じような構造をしています。
たとえば、トップページがあり、カテゴリ別のリストページがあり、商品一つ一つの詳細を説明するページがあり、そこにはたいてい、カートに追加するボタンがあります。一通りカートに追加したら確認ページがあり、配送先を入力して、最後に決済、つまりおカネを払います。
良し悪しは別にして、買い物をするサイト、ECサイトは使い方がどれもよく似ていて、ほとんどすべて標準化されています。
つまり、裏を返すと、ネットでモノを売るWebサイトをつくりたい場合、やりたいことはだいたい同じだ、ということです。
すると、よく使う機能やあると便利な機能は、部品として提供してあげて、あとは自由にカスタマイズできれば、時間やおカネをかけずにすぐにモノを売るサイトができるんじゃないか・・・という発想が出てきます。
「D2C」企業に必要なパーツを提供して成長したのが、「Shopify」です。
カナダ発の企業ですが、2年ほど前に日本にも進出してきたので日本語ページにリンクします。
メリット:エンジニア人員を少なくできる
ネットを使ってビジネスを行う企業にとって、壁になるのが「エンジニア、プログラマ」の確保です。
私は20年以上ネットの仕事をしてきましたが、エンジニアやプログラマの価値や時間単価はあまり変わっていませんし、不足していないのを見たことがありません。昨今「ノーコード」などと言われてプログラマが必要なくなるという意見がありますが、その気配はいまのところまったく感じません。
つまり、エンジニアは文字通り「引く手あまた」で価値が高く、給料も高くて、優秀なエンジニアを採用するのは企業にとって難しい課題なのです。
ショッピング・サイトをつくって運営しようと思えば、前述のようなカート機能や決済機能の他に、優秀な検索機能も必須です。SNS連携はいまどき当たり前ですし、多言語展開も必要です。さらに、チャットでサポートする機能や、レビューをつける機能もほしくなります。顧客管理や商品の在庫管理もしなければなりません。これらの開発には、すべてプログラマが必要です。
しかし、これらの機能を部品として提供してくれて、「選ぶだけ」という状態なら、エンジニア要員はその分少なくてすみます。これは、特に「D2C」企業の初期段階では巨大なメリットです。
創業18年、時価総額1000億ドル超
「Shopify」の創業は2004年とネット企業としては老舗で、ニューヨーク証券取引所に上場したのは2015年でした。ゆっくりと成長した印象があります。
とはいえ、当初はスノーボードを販売するストアだったそうで、現在のサービスが登場したのは2008年頃だそうです。
スノーボード屋から、D2C支援のSaaS企業へと変わった「ピボット」の大成功事例とも言えそうです。
コロナ禍で株価は乱高下しましたが、時価総額1000億ドルを超えるビジネスに成長しました
(※執筆時点の数字です。)
事例)AWS: Amazon Web Service
「クラウド」の先駆者、先行者であり、いまも業界トップを走り続けているのが、あの「Amazon」が提供する「AWS:Amazon Web Service」です。
「クラウド」については、このブログでも何度も取り上げていますので、詳しい解説はここでは避けます。
「D2C」事業との関連で強調したいことは、その「スケーリング」機能です。
つまり、アクセスが増えたら、増えた分だけ追加利用して、その分だけお金を払えばよい、という機能です。
それは、売上ゼロ円から、急成長して何百億円になったとしても、同じように「AWS」を使い続けられることを意味します。
さらに、「AWS」を利用することにより、「インフラ・エンジニア」と呼ばれる仕事を大幅に減らすことができます。初期の人件費節約に強力に効いてきます。
普遍の法則?)ツルハシ・モデル
唐突ですが、アメリカ西海岸で1850年ごろに「ゴールドラッシュ」が起きました。
現在のカリフォルニア州で、金脈が発見され、金鉱が開発され始めたのです。10万人単位での人の移動が起きました。
このとき、一番儲けたのは誰でしょうか。
そんなのは金鉱を掘り当てた人でしょう、というのが普通の答えです。
しかし、一番もうかったのは、金鉱を探し当てたい人が必ず必要とする「ツルハシ」を売った人ではありませんか、というのがここで取り上げたい話題です。
金鉱を掘る人自身は、出れば一攫千金ですが、掘っても掘っても金が出なければ大赤字です。土地の権利をおさえ、機械を買い込み、人員を確保して掘りますから、そのリスクは大きいです。
しかし、その金鉱を掘る人たちのために、道具を作って売る仕事は、そのような大きなリスクはありません。それでなくても同じことをしたい人たちが大量に集まってくるわけですから、需要を見込んで生産することができます。
つまり、ブームで集まった人たちを助ける商売が一番儲かる、という法則がありそうです。
ブームで集まった人たちを助ける商売が一番儲かる(!?)
事例)リーバイス /ツルハシモデル大成功事例?
たとえば、日本人にもなじみ深い「リーバイス(LEVI’S)」というブランドで、デニム、ジーンズを売るメーカーがあります。
この「リーバイス」は、もともとこのゴールドラッシュに集まる人に作業服を提供したのがその始まりです。その後、150年以上続く繁栄の基礎を築きました。
ちなみに、古いデニムはコレクション的価値があるそうで、当時の古い金鉱に入って、そこに落ちているリーバイス・ジーンズの切れ端を拾ってくる人もいるそうです。
事例)仮想通貨取引所 /現代のツルハシモデル
「仮想通貨」についての善し悪しや意見はいろいろありますが、ある意味で久しぶりの「ビッグ・ウェイブ」であったことは、否定されないでしょう。
ゴールドラッシュがよみがえったかのように、仮想通貨でひと儲けしようという人たちが集まり、いまも取引は活況でその乱高下は必ずニュースになります。
ここに、前述の「ゴールドラッシュ」とまったく同じ状況ができています。つまり、仮想通貨を売買して儲ける人たちは、金鉱を掘る人たちと同じく、当たれば大儲けですが大損する人も出ています。
これに対して、「ツルハシ」を提供したのはだれでしょうか。
それは、「仮想通貨取引所」でしょう。
上場することがないためか、仮想通貨取引所を運営する企業の財務内容が出てくることはあまりありませんが、彼らがどれだけ儲かったのかの片鱗は、ある事件で垣間見えました。
それは、「コインチェック」という仮想通貨取引所サービスで「580億円」相当の仮想通貨が盗まれた、という事件です。いまだに犯人はわかっていませんし、その「580億」はどこにいったかわかりません。
しかし、コインチェック社は、その事件の発覚の一週間後に、「すべておカネはお返しします」と顧客に伝えています。つまり、500億払える余力があったということです。
その後、「コインチェック」社は、「マネックス」という企業に買収されます。「マネックス」は上場企業であるので、次の決算発表でその財務内容をみることができました。
「コインチェック」買収により獲得した仮想通貨事業は、500億のおカネ(実際には480億円)を顧客に手渡しても、十分に黒字だったことがわかっています。
日本国内の仮想通貨取引所で、コインチェックはトップだったわけではありません。業界全体ではもっと大きなおカネが動いていました。
大成功の条件)抜群のタイミングで事業を開始する
仮想通貨の代表格である「ビットコイン」は2009年初めから運用が始まっています。
2010年代前半、「仮想通貨は怪しいもの」と思っている人が大半だった時期に、仮想通貨取引所を立ち上げて、その数年後に大ブームがやってくるまでその事業を継続できたことが、その成功の条件でした。
ビッグ・ウェイブ、巨大な変化の先頭に乗れば、大儲けできるのが、ツルハシ・モデルと並ぶ普遍の成功法則なのかもしれません。
まとめ
「D2C」ブームを支えたサービス、企業、その成功の要因についてコメントしました。
お役に立てば幸いです。
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