「ヒーローズ・ジャーニー」という学説を活用・応用するマーケティング・テクニックを紹介します。
「ヒーローズ・ジャーニー」とは
「ジョセフ・キャンベル」という神話学者が「ヒーローズ・ジャーニー」という概念を提唱しました。
「ヒーローズ・ジャーニー」とは、
恵まれない境遇、弱い、あるいは、しいたげられた主人公が、旅立って、困難に打ち克ちながら、成長し、何かを達成して、帰還する話し。
「ジョセフ・キャンベル」は、古今東西の神話・民話が、どれもこれもこのパターンにハマるのである、ということを提唱したのです。
よくよく振り返ると、現代の我々の周りには、このパターンのストーリーに満ちあふれていることがわかります。
「ヒーローズ・ジャーニー」に満ちあふれる映画やマンガの世界
映画やマンガで、「ヒーローズ・ジャーニー」を体現している事例を挙げてみます。
「スター・ウォーズ」
たとえば、「スター・ウォーズ」。
辺境の星にみなしごで育った男の子が、旅立ってジェダイになり、悪の軍団を倒します。大ヒットしたためにシリーズがどんどん増えていますが、どの1本を見ても配役は変わりながらこの「ヒーローズ・ジャーニー」のパターンにハマっていることがわかります。たとえば、「エピソード1」では、アナキンが辺境の星でゴミ拾いのような商売の家にいるところから始まります。
「マトリックス」
大ヒット映画の例では、「マトリックス」もわかりやすいです。
暗い地下世界にいるハッカーが、赤いカプセルを飲んで旅立って成長し、最後にはスーパーマンのようになって悪を滅ぼします。
「マトリックス」の監督として有名になったウォシャウスキー兄弟(いまは姉妹に変わったそうですが)が大好きだったのが、日本のマンガです。特に少年ジャンプに連載されたマンガが大好きだと言われています。
少年ジャンプに連載されたマンガは、実は「ヒーローズ・ジャーニー」のオンパレードです。
「ドラゴンボール」
たとえば、「ドラゴンボール」。
田舎にいたしっぽのはえた少年が、旅をしながら修行して、強大な敵を倒します。これも「スターウォーズ」と同じように、主人公と悪役が変わっていきますが、最初は弱かった主人公が、ついには強大な敵を倒す、というパターンがもはや戒律であるかのように守られています。
「ワンピース」
「ワンピース」も同じです。
辺境の地にいた主人公が「オレは海賊王になる!」と志して、仲間を得ながら旅をするストーリーです。
「キャプテン翼」
最新のマンガには追いついていないので(笑)時代をもっとさかのぼると、サッカー漫画の「キャプテン翼」も「ヒーローズ・ジャーニー」です。
赤ん坊がサッカーボールに助けられるところから始まり、天才サッカー少年として描かれつつも、すごい強敵がどんどん現れては戦い、苦難を乗り越えて試合に勝ちます。
サブキャラの「ヒーローズ・ジャーニー」を重ねる
また、主人公ではないがサブのキャラクターのヒーローズ・ジャーニーを描いて、物語を重層的にふくらませることもよく行われています。1話分をサブキャラクターの生い立ちにあてたり、外伝のような形でストーリーを切り出したりします。
「キングダム」
ビジネスマンに定評のある「キングダム」もヒーローズ・ジャーニーです。
秦の始皇帝の将軍となった幼なじみの孤児を主人公としています。
始皇帝自身を主人公としてしまうとあまりにも強すぎて読者の共感をえられないので、その幼なじみをたてて主人公としたと言われています。
「ヒーローズ・ジャーニー」を使うコツ
ここに「ヒーローズ・ジャーニー」を使うときの一つの技術があります。
つまり、最後にはスーパー最強になる主人公も、最初は、しいたげられて、弱く、多くの視聴者・読者よりも恵まれない境遇に、設定することです。自分の目線よりも下からスタートするから、成長していくときに共感をえられるのです。
このように、「ヒーローズ・ジャーニー」という概念を使うと、多くの映画やマンガ、小説などのストーリーの構造が見えてくるようになります。少しずらしたり、いくつかのヒーローズ・ジャーニーを重ねたりしている構造が見えてくると、単におもしろかったというところから、違った味わいが出てくるはずです。
ゲームの世界にも「ヒーローズ・ジャーニー」
ゲームの世界にも「ヒーローズ・ジャーニー」はたくさんあります。
大ヒットした「ドラゴンクエスト」などのRPGと呼ばれるゲームは、最初レベルゼロでものすごく弱い状態から始まります。旅をしながらだんだんと強くなり、最終的にボスを倒して王女様を助ける、という構造になっていて、もう「ヒーローズ・ジャーニー」そのものです。
マーケティングに応用される「ヒーローズ・ジャーニー」
このように、我々の心に深く根を下ろしている「ヒーローズ・ジャーニー」は、マーケティングにも応用されています。
「RIZAP(ライザップ)」のCMは、「ヒーローズ・ジャーニー」だ!
ものすごくわかりやすい事例が、有名な「RIZAP(ライザップ)」のCMです。
ここまで読んでくださった方は、これが15秒に凝縮された「ヒーローズ・ジャーニー」に見えてくると思います。
こんなだったヒトが、こんなふうになれるんだ、という成長ストーリーを感じてしまうのです。だから、共感を呼んで印象に残ってしまうのです。
「ヒーローズ・ジャーニー」専用サイトの例
もう少しわかりやすく10分程度のストーリーにまとめているサイトがあります。
決意してRIZAPに通い、苦難や挫折を乗り越えながら、最終的にスリムな体になる、というもはや「ヒーローズ・ジャーニー」の特集サイトにみえてきます。自分と同じ、あるいは、自分より太っていたヒトがスリムになっていく様子をみると、自分がそうなりたいという以前に、結構感動してしまいます。
ストーリーで売るときのキモ:Howは書かない・出さない
このサイトをひと通り見ていくと、気がつくことがあります。
それは、何をどうしたらこうなるのか、ということがほとんど表現されていないことです。最初の状態と、苦難を乗り越えていく様子、スリムになった結果は、くどいほどに表現されていますが、そのノウハウについてはほとんど書かれていないし表現されていないのです。
「なぜどうしたらこうなるのかを知りたければ、RIZAPに来ておカネを払ってね」という構造になっています。ここを書かない、表現しないことが、マーケティングに応用するときの、一つの要所・キモです。
プレゼンや自己紹介にも応用できる「ヒーローズ・ジャーニー」
映画の脚本に応用されて広がった「ヒーローズ・ジャーニー」ですが、人に話しをするときにも応用できます。つまり、ビジネスでのプレゼンやスピーチ、自己紹介に「ヒーローズ・ジャーニー」を取り入れることで、ストーリー風になりドラマチックな展開を演出できます。
しかし、いちいちボスを倒して帰還する話しをプレゼンに入れるのは手間がかかります。そこで、ここでは、プレゼンやスピーチで使えるちょっとした小技を紹介します。
下から始めるために、失敗談をストック
「ヒーローズ・ジャーニー」を使うときの最重要ポイントは、へりくだって下からスタートすることです。
これを自然に取り入れるには、まず、当たり障りのない失敗談を、普段からいくつかストックしてためておきましょう。たとえば、
- 子供のころの体験
- 海外での初めて体験
- 新卒のときの会社体験
などなど、10年以上の時間が過ぎていたり、初めてだとどうしようもないと思われるような体験談がよいでしょう。
失敗談や挫折体験をつかみの部分で話すことで、ちょっとした笑いがとれれば、リラックス効果が生まれて話しやすい雰囲気を作ることができます。
TPOに気を使う
ただし、TPOに気を使う必要があります。
たとえば、講師をするときのテーマそのものであまりに激しく失敗した話しをすると、この人は大丈夫なのだろうかと思われて逆効果になる恐れもあります。どの程度の失敗から立ち上がってくるか、現在の状態との違い・ギャップの大きさをうまく調整してください。
起業家のプレゼンでは、もはや常套手段
また、起業家のプレゼンでは、挫折体験を乗り越えて成功したストーリーがよく出てきます。
これはテレビ番組がわかりやすいです。
たとえば、「プロフェッショナル仕事の流儀」や「カンブリア宮殿」などの番組では、失敗体験や挫折体験を語る部分が必ず入りますので、そういう観点でみてみると、番組がワンパターンで構成されていることに気がつきます。
まとめ
「ヒーローズ・ジャーニー」を解説し、マーケティングに応用される事例を紹介しました。
お役に立てば幸いです。
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