コンピュータやインターネットの技術を学べる学校はたくさんあります。ただ、学校ではある程度認知が広がって体系化された知識を教えることが多く、最先端の現場からは古いものを教えているという印象があります。
では、変化の激しいIT業界やネット業界の勉強は、学校で学んでも意味がないのでしょうか。
「ls」
唐突ですが、パソコンに向かっている方は、Windowsなら「PowerShell」、もしMacなら「ターミナル」というアプリケーションを起動してみていただきたいのです。Windowsで探すのはたいへんかもしれませんが、スタートメニューをあけたまま「PowerShell」と打ち込むと、青い矢印のようなアイコンが出てきます。
起動したら、プロンプトと呼ばれる「>」がついた状態で入力を待っているような状態になります。ここで「ls」と入れてください。エクスプローラー(Macならファインダー)と同じようにファイルとフォルダの一覧が出たはずです。
「ls」の他にも、cat, find, grep, diff, tail, man, unzip, tar などいろいろなコマンド(命令)が使えます。これを私が大学で学んだのはもう30年ぐらい前です。私がはじめてインターネットにつながったのと同じ時期です。
つまり、学校で教えてもらってから30年、そのまんま使い続けてまったく陳腐化することなく現在にいたっている知識がある、ということです。変化が激しいと思われているネットの世界ですが、20年選手30年選手の知識が実はたくさんあります。
勉強の積み上げが効く、ということです。
ハードウェアとソフトウェア
もちろん、激しく変化してすぐに陳腐化していく知識もあります。大きく分けると、ハードウェア、つまり目に見える機械の変化・進化はものすごく激しいですが、ソフトウェア、プログラムや画面の中の世界は実際に目に見えて触って確かめられない反面、変化はものすごくゆるやかです。変化の周期は、40年とも50年とも言われています。あるいは、AI(人工知能)のソフトウェアのように、30年周期で流行するような知識もあるぐらいです。
よって、激しく変化する部分を捨てていき、変化しないで役に立ち続ける部分を残していく作業をずっと繰り返していくと、ネット業界で生き残ることができます。
「すべてを覚えない」
同じく学校で教えてもらった大事なことが、もう1つあります。それは、「すべてを覚えない」ということです。
当時はインターネットはありましたが、Web、つまり、ブラウザや検索エンジンはまだありませんでした。よって「ググる」ことはできません。でも、オンラインマニュアルはありました。前述の事例のなかに「man」というコマンドを挙げましたが、これがオンラインマニュアルを表示させるための大事なコマンドでした。まず最初にこれの使い方を覚えて、何かわからなかったら「man」で調べるのです。
とはいえ、30年前はまだマニュアルを紙に印刷したり書籍にしたりすることが一般的でした。いまでもよく覚えているのが、MS-DOS(Windowsの前身)の開発者向けマニュアルです。全部で20冊ぐらいあり、本棚に普通に並べると幅が1m、スチールの棚を一つ占領するぐらいのボリュームがありました。おまけにこれが、どんどん変化し、更新されていくのです。
すると、すべてを覚えても意味がない、ということは必然です。これは大学受験をくぐり抜けてきたヒトにとっては意外とインパクトがあることでした。それまでは、とりあえず覚えれば試験をクリアできたのですから。
調べ方「だけ」を覚える
では、覚えても変わっちゃうしたくさんありすぎる、という状況に合わせるためにどうするかというと、「調べ方だけを覚える」ということになったのです。調べ方だけを覚えて、中身はいちいち覚えない、という新しい技術を身につける必要に迫られたのです。これはいまから考えるととても幸運でした。知識社会と呼ばれて、世の中全体がこの方向に動いたからです。
同時に、勉強し続けなければならない、ということも学びました。だって変わってしまうのですから。これを体に浸透させることができたのも、とてもラッキーだったといまでも思います。
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