だれかに話しを聞いてもらえることは、幸福だ。
都会ではだれもがみんな忙しい。ヒトの話しなどゆっくり聞いているヒマはない。スマホでピコピコやる時間は増えたが、ヒトの話しを聞くヒマはない。相手と時間を合わせていっしょに時を過ごすことはとてもたいへんなことだ。
だから、自分の新しいアイデアや新企画、新しい事業の計画を聞いてもらえることがあるとしたら、それはかなりの幸運だ。現代の東京にいて、それは幸運なことだと確信できる。でも聞いてもらえるということは、その新アイデアに対する相手の反応を見る、ということを意味する。これは勇気のいることだ。
だから、めげずに新しいことを言い続けるために、新企画を話したときの反応とその対処についての一般論をまとめたい。
まず第一にあげるべき「反応」は、まったく相矛盾する、まったく反対の意見が出ることだ。これを見るには3人も話し相手がいれば十分だ。好き・嫌い、おもしろそう・おもしろくなさそう、とかそういうレベルではなく、利益が出そう・利益が出ない、ニーズがある・ニーズがない、など同じ対象を見聞きしているとは思えない反応が出る。
これは、こういうものなのだ。
理由はいろいろあるが、突き詰めると1点になると思う。
それは、「未来のことはわからない。」ということだ。新しいアイデアや新事業の企画は、未来のことである。「新しい」「新」とは過去になかったことを意味する。
過去はわかる。おカネをかければかけるほど、わかる。
おカネがあれば、たとえばリサーチ会社に市場調査をやってもらうことができる。だから、過去から推測した未来を語ることは当然可能だ。ビジネスの世界でも、マーケットリサーチにおカネをかけられる大きな会社が勝つ時代があった。だがいまは、過去の出来事から未来を推測できないことがわかっている。「未来のことはわからない」という前提でマーケティングや事業を展開することが、普通になっている。
しかも、未来は変わる。
たとえば事業を興したことで、関係者や社会に影響が出る。それが出たことで業界に変化が起こる。競合が反応する。不確定性原理に似ている。未来に影響を与えずに未来を見ることはできない。影響が大きいか小さいかという問題だ。
相矛盾しているだけなら、それほど勇気はいらないかもしれない。新しいアイデアを出せば、反対意見が多く出る。しかも、新規性があればあるほど、反対や批判が多くなるのが一般的な法則だ。
しかし、「未来のことはわからない」ために、そのすべてに対して反論し、切り返すことはできない。
事業成功の条件として「情熱」と「専門知識」が必要だ、と言われる。
「専門知識」は、ある意味で過去のことである。これは、時間をかけたりヒトの助けを借りたりすれば、一定の時間内で解決可能だ。だから、反対や批判に対して、「専門知識」でつめて切り返すことはできるし、成功の確率を高めるためには、つめていくべきだ。後戻りしている時間は少ないほうがいい。
しかし最後は、批判を受けながらもやるか、やらないか、を問われる。
これが「情熱」だ。
「みんなが」ダメだやめとけと、必ずしも悪意でなく善意で言っていることもある。それを押し切って、世界のどこかにいるヒトたちのために、やるかどうか。「情熱」が問われる。
事業の初期段階においては、「なんとなく好きになってくれる100万人より、熱烈に愛してくれる100人のファン(書籍「Airbnb Story」より引用)」を大事にせよ、という法則がある。その100人には、事業を始めない限り会えないかもしれない。会えたとしてもその事業を見てみない限り「ほしい」と言えないかもしれない。だから、やってみるしかない。
「キャズム理論」は、このことを理論化したのだとも言える。
まずは16%のアーリーアダプター層に向かって徹底的にサービスせよ、そうしなければニーズがあるのかどうかさえわからない、と。だから、反対や批判に負けない「情熱」と「勇気」をもって、未来を拓こう。
しかし、100人のファンができたとき、まったく正反対の性格が要求される。
それは、ヒトの意見をきくことだ。お客様の言っていることに、真摯に耳をかたむけられるか。それが事業の成否を決める段階がやってくる。つまり、少なくとも事業の段階に応じて、まったく相矛盾する正反対のことをやらないと、事業成功は難しい。
ヒトの意見がきける人のことを、「器」の大きい人、と呼ぶ。
だから、「器」の大きいヒトは、ヒトの意見や批判を取捨選択することになる。つまり、その選択によって、未来が決まり、事業の大きさが決まり、結果として現れる「器」が決まる。
でも、新しいことを言い出して、相矛盾する周りの意見を受け止めて突破した経験があるならば、相矛盾する性格をあわせ持って行動できるだろう。相矛盾する事柄を解決していくことは「経営」と呼ばれる。
※文中の参考文献:
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